加齢黄斑変性について
網膜には直径1.5mmほどの黄斑という部分があります。黄斑はものを注視する際に使っている部分で、「見る」ために最も重要な役割を担っています。
加齢黄斑変性は、黄斑の働きが加齢によって異常を起こし、視力が低下し、失明に至ることもある疾患です。欧米では中途失明原因の第1位ですが、日本でも近年増加傾向にあります。
加齢黄斑変性のリスクは、喫煙、紫外線などによる酸化ストレス、偏った食生活などによって上昇するとされています。
加齢黄斑変性の種類
滲出型と萎縮型の2種類に分けられます。
滲出型
黄斑には血管が豊富な脈絡膜があり、これは網膜より外側に存在します。この脈絡膜からもろくて質の悪い新生血管が伸び、血管から血液の成分が染み出たり、出血を起こして黄斑の視細胞を損傷して発症します。新生血管は出血などを起こしやすいので、視細胞の損傷が急激に進みやすく、黄斑の機能も急激に失われてしまう可能性があります。
萎縮型
老化とともに網膜の細胞や脈絡膜が徐々に死滅することで起こるため、進行は比較的遅く、黄斑の機能はゆっくりと失われていきます。なお、残念ですが、この萎縮型に有効な治療法はありません。
加齢黄斑変性の症状
初期症状
- しっかり見ようとしている部分の直線がゆがんでいるように見える
- 真ん中が暗く感じる
進行した際の症状
- 初期症状が強くなる
- 視力が低下する
- 色の識別が難しくなる
さらに進行した際の症状
- 見たいと注視している部分がよく見えない
- 文字が読めない
- 自分で書いている字が見えない
委縮型の場合、とてもゆるやかに組織が損傷していくため、症状もゆっくりと進行していきます。そのため、徐々に滲出型のような症状が現れます。
加齢黄斑変性の治療
滲出型の治療では、新生血管の状態、黄斑の中でも最も重要な中心窩との位置関係などを考慮して適切な治療法を選択していきます。主な治療法としては下記の3つの方法があります。なお、当院では治療の必要な患者様は他院へ紹介させていただいております。
レーザー光凝固
黄斑の中でも「見る」ために最も重要な部分が中心窩です。黄斑はすり鉢のようにくぼんでいますが、その中心に中心窩があります。活動性の高い新生血管が中心窩から離れた場所にあるケースでは、このレーザー光凝固の治療が有効です。
これはレーザーで新生血管を焼灼して、それ以上視機能が損なわれることを防ぐ治療法です。その周辺の正常な組織も焼灼されるため、治療後には見えなくなる場所が生じ、視力の完全な回復はできません。そのため、この治療は残された視機能を保つことを目的に行われます。
光線力学的療法(PDT)
中心窩に新生血管がある場合に行われるレーザー治療で、視機能の保持を目的に行われます。事前に光感受性物質を腕の血管から注射し、光感受性物質が新生血管へ大量に入った時に特殊なレーザー光線を照射する治療法です。光感受性物質はレーザーの特殊な光に反応して活性酸素を出して新生血管を損傷します。新生血管が固まるまで何度か治療を繰り返す必要があるため、3ヵ月に1 回造影検査を行って新生血管の状態を確認します。
光線力学的療法で使われるレーザーは熱をほとんど発生させないため、中心窩の視細胞へのダメージがありません。ただし、視力が良い方の場合、視力が低下する可能性があるため、視力が0.5くらいまで下がった状態で行われることが一般的です。
抗VEGF療法
新生血管は、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)という1種の糖たんぱくによって成長が促されます。この治療では、VEGFの働きを抑える「VEGF阻害薬」を眼球に注射して新生血管を縮小させます。注射だけですので1回の治療は短時間に行えますが、脈絡膜から網膜に向かって伸びる新生血管の成長を止めて縮小させるためには繰り返し何度か治療を受ける必要があります。
上記の光線力学的療法(PDT)では視力低下の可能性がありますので、視力が0.6以上に保たれている際には視力低下を及ぼすことがほとんどないこの抗VEGF療法が適しているとされています。